翼竜物語




幼なじみのララとニニは

とても仲の良い恋人だった


ララは生まれつきクチバシが折れていたので

ニニは口移しで餌をやった


ニニは生まれつき片翼がもげていたので

ララは傷口にキスをした


或る日　薄曇りの湖畔で

ふたりはたしかめあった

これからの道のりも

けっして離れずに生きてゆこうと


ところがふたりの前には

冷たい峰がそびえ立っていた

きっとこの絶壁を越えたむこうに

あたらしい巣が待っている


ララはしだいに不安をいだきはじめた

片翼のニニが　ともに飛べるのかと


望むべき未来から逆算すれば

隣にいるべきは　ニニではない


ララはひとりで空に舞った

さようなら　ニニ


風がこごり雲を押しやって

光が山の端をふちどった

木蓮がはなむけの唄を奏で

シダの葉たちはいっせいに手を振った


湖のほとりでニニは笑った

辛いときこそ笑えと教えられていたから

そして餌をやっていたクチバシで

心臓を


湖面はおだやかな顔をしながら

そびえ立つ山を映していて

その横で　腹を空かせたニニの影が

粒となり吸い込まれていった


近くの森では

若いディアトリマが卵を産んだ

やがて日はかたむき

白亜紀は暮れゆく



かくしてプテラノドンは

絶滅した