ブルーベリー・ストーリー



ぼくの好きな紅茶のバラエティパックは

レモン アップル ストロベリー

マンゴー マスカット ブルーベリー

という組み合わせなのだが

ブルーベリーティーだけが口に合わず

いつも残ってしまう

一人暮らしだからぼくのかわりに

飲んでくれる人も家にはいない


そこでブルーベリーティーを飲んでくれる

猫でも飼おうかと思い立ち

ペットショップで聞いてみたが

カフェインが神経系へどうのとか

マタタビと勘違いするから危ないとか

要するに猫に飲ませちゃいけないらしい

猫以外のペットを飼う気はないので

帰ることにする


すると店員のおねえさんに呼び止められ

事情をたずねられた

一から説明すると

「あら ブルーベリーティー美味しいのに!」

とおねえさんは言う

そんなわけでぼくは彼女に

ブルーベリーティーをあげることにした


大学が休みの日曜になるたび

ぼくはブルーベリーティーを袋に詰め

ペットショップまで届ける

おねえさんは嬉しそうに受け取ると

代わりに白あんの人形焼きをくれる

彼女は白黒セットの黒あんが好きなのだが

白あんは苦手であるらしい

ぼくは白あんが好物なのだ


そんなことがふた月も続く頃には

紅茶はただの口実になっていた

ある日ぼくは思いきって

気持ちを打ち明けることにした

でも ペットショップだったのでつい

「動物の中でいっとうあなたが好きです」

なんて言ってしまい

おねえさんは目をぱちくりさせると小声で

「もう店に来ないでください」と言った

その日を境にぼくは

ペットショップに通うのをやめた


以下につづく物語の結末なんて

だれも望んでないのは分かってるさ

間抜けであっけない幕切れよりも

恋には美しい悲劇が似合うってことも

でもこれは事実だからしょうがない


いまぼくは部屋のソファに座って

届けてくれた人形焼きをほおばり

隣には紅茶を飲むおねえさんがいて

ふたりの膝には社員割引で買った

ブルーベリーという名の猫がいる