同舟 ひとりで漕いできたのですね 底の傷んだ木の舟を 海原荒れる嵐の朝も 月明かりのない雨の夜も 羅針盤も持たず たったひとりで つらい思いだったでしょうね 頼るすべなき航路は それでもあなたは涙を見せず 漕ぎつづけてきたのでしょう 向かい風にあらがって その細い両腕で ずぶ濡れのあなたと出逢ったとき わたしは港になるつもりでした 停泊している舟を繕い 冷え切った体をあたため いつかまた遠い海へ 旅立ってゆけるようにと でも　あなたが舟に乗り ふたたび海へ漕ぎだそうとしたとき たまらなかったのです 気付いたときわたしは 隣に乗り込んでいました 港であることなど放棄して お供させてはもらえませんか これから巡る航海に 片方の櫂はわたしが握るので ふたりで漕いでゆきませんか あなたのかぶる波を わたしもかぶっていたいのです