ハコ ○月×日 ハコと公園に出かける 珍しくキャミソール姿だったので 今日はセクシーだね　と言うと 彼女はあどけない顔でたずねる 「セクシーの定義ってなに？」 ○月×日 ハコと食事をしに行く 「中華？　和食？　イタリアン？」 と聞かれたので　和食を選ぶ 「正解」と言われる 誤答でなくてよかった ○月×日 ハコと飲みに行く 待ち合わせ時刻に携帯が鳴り 「７分遅れるから先に店に行って レッドアイとつくね注文しといて」 とだけ言って電話が切れる ハコは実に効率がよい ○月×日 ハコに休日の報告をする 今日は起きぬけに「潮騒」を読んで ブランチに冷凍ペスカトーレを食べ 夜は内海くんと飲みに行ったよ 「ふぅん　共通点は海ね」 ○月×日 ハコにメールを送信する 会社でトラブルがあってさ 謝りっぱなしで参ったよ　あと 金曜がお通夜で　土曜告別式だから　 日曜なら会える　空いてる？ 「空いてる」とだけ返ってくる ハコは「？」 にだけ反応する ○月×日 ハコに将来の話を持ちかける いまいち歯切れが悪い 「条件」について 色々と気になっているらしい ○月×日 ハコと喫茶店に行く 内海くんが三角関係になり 大変なことになっている顛末を話す ハコはストレートティーを飲みながら 「要は整理すると」と言って 紙ナプキンに人物相関図を書き出す ○月×日 ハコと旅行の計画を立てる ツアーみたいに縛られたくないし その時の気分で自由に回ろうか そう提案しかけると ハコは分刻みの「行程表」を広げる エクセルで作ってきたらしい ○月×日 ハコは「ごちそうさま」と言わない 「ごめんなさい」も「ありがとう」も めったに言わない 「好き」は一度も言ったことがない 「あの技術すごくない？」が口癖 ○月×日 ハコを思う気持ちが 揺らいできている？ いや　そんなはずはない こんなにいとしい人とは そう巡り合えるものではない この頃どうかしている ○月×日 久しぶりにハコを抱く せかされて急ぎ足に果てると 余韻にひたる間もなく ハコは服を着ながら尋ねる 「次はいつ会える？」 仕事が延びなければ六日の夜かな 「確率は？」 ○月×日 ハコに迫られる 「あたしをどう思ってるわけ？ 白黒つけて　○×はっきりして あゝ　気持ち悪い 好きなら　好きなところ 箇条書きにして」 ○月×日 ハコ　きみが好きだ 互いを思う気持ちさえあれば きっとぼくらはうまくいく そう伝えると ハコは軽くキスをして 天使のような顔で言う 「その仮説　証明して」