白星号



目が覚めてテレビをつけると

今朝もとれたての殺人が流れていて

それを見ながら食パンを齧り

まずいインスタントコーヒーで流し込む


通勤快速に飛び乗れば

すし詰めの人々は何かの儀式のように

みな一様にヒジを折りたたみ

手元の液晶世界を見つめている


乗り遅れることが怖くて

取り残されることが不安で

ぼくらは必死に食らいつく

時代という急行列車に


息継ぎのように首を伸ばすと

中吊り広告には既に犯された失敗と

これから犯されそうな失敗への

断罪の碑銘が並んでいる


自分が愚かだと認めたくなくて

劣等感をなぐさめたくて

ぼくらは有名人のアラ探しをする

惨めなことと知っているのに


救いようのない世の中になったと

老獪な文化人たちは嘆く

自らも加担したことなど棚に上げ

まるで他人事のように


救いようのないぼくらを乗せて

列車は長いトンネルをくぐる

それぞれの思いの向かうところへ

それでも守るべき何かのために


きっとぼくらは性懲りもなく

またヘマをやらかすにちがいない

よかれと思って掘った穴で

見知らぬ誰かをつまずかせたり

愛してやまないはずの人を

傷つけてしまったり


それでもぼくは信じていたい

人の心にある清らかさを

たとえいっさいがうつろに響いても

時代が出口のない闇に見えても

ぼくらは胸にまたたく白い星を

決して失いはしないだろう


走れ 列車よ

間違いだらけのぼくらを乗せて

もしもレールを踏み外したなら

そのときは翼を広げ

ゆけ 白星号

その先にある光めがけて