花泥棒



花泥棒を捕まえた

玄関先の鉢植えを

何度も何度も盗まれるので

見張っていた夕暮れのこと

犯人は近所の人妻だった


綺麗だったのでつい

手が出てしまいました

彼女は観念する

花は無事なのですかと尋ねると

はい 育てています

明日お返しに伺います と


花泥棒は罪ならず

昔からよくそう言うが

はたしてどんな意味だったか

翌朝 彼女は

すべての鉢植えと

菓子折を持って謝罪に来た


花屋で売っていた花たちを

わたしは買って並べていたが

そもそもどうして

花に値段がついたか

西瓜もメダカもカブトムシも

だれが値段を決め

自然におけるどのような権利で

人々はそれを売り買いし

我がものとして所有するのか


水や日や大地の恵みで

育まれたものはだれのもの

わたしもまた断りなく

木々が生みだす酸素を

ただで盗む空気泥棒


花が好きなのですか

そう尋ねると彼女は

申し訳なさそうに小さく頷く

罪を認める人の首筋は白く

その仕草は可憐で

不覚にも我が胸は


しかし彼女もまた

自然の恵みに育まれながら

紛れもなく人のものであり

綺麗だったのでつい では

許されようもない

盗まれざるべき花だった