判定C



塾帰り 少年は寄り道をして

芝公園のベンチに腰かけた

入試間近なのに成績がサイアクで

家に帰りたくなかった

改めて模試の結果を広げると

常夜灯が冷たく「判定C」を照らした


ふいに一人のおじいさんが歩いてきて

少年のすぐ隣に座った

どうしてここに? と思いながら

辺りをきょろきょろ見回すと

他のベンチはすべて

カップルで埋まっていたのだった


おじいさんはふぅぅと息をつき

「今夜が仕事納めでなあ」とつぶやいた

少年は何か答えなきゃと焦り

「一年おつかれさまでした・・・」と言ってみた

おじいさんは制服の一番上のボタンを外した

「いやいや 一年のじゃなくて人生のな」


おじいさんは斜め上の空を見ながら

「お役目御免ってやつさ」と 

白く豊かなあご髭をなでた

視線をなぞるとその先には

ちょうど灯りがともったばかりの

東京タワーがあった


東京タワーは昭和の生真面目さで

敬礼するように屹立していて

その姿を少年は格好いいと思った

少年とおじいさんは並んで

冬の夜に凛々しくそびえたつ

その一本のツリーを眺めた


ふとおじいさんが「判定C」を覗きこみ

「ほぅ ChristmasのCだな」と言い

それから×だらけの答案をムリヤリ広げて

「はっはっ X’masのXだらけだ」と笑うので

なんだか落ち込むのがバカらしく思えてきて

少年も一緒になって笑った


やがて雪が降りはじめ

あたりを白く染めていった

少年がひとつくしゃみをすると

おじいさんは真っ赤な制服を脱いで

「寒いんじゃないか?」と言いながら

少年の肩にかけた


おじいさんの制服の裏地は

積年の熱が染み込んでいるようで

やけにあたたかかった

少年は立ち上がらなければならぬ気がして

やっとベンチから腰をあげた



東京タワーのふもとから

頭にCの字を二本はやした獣が

鈴を鳴らして駆けてくる