除夜



もしもあなたと出逢わなかったら

わたしは幸せになっていたろうか

ささやかでも小さな家を買い

寒い夜には炬燵にもぐって

それなりに気の合うつれあいと

みかんの皮でも剥きながら


子どもらが寝静まったあとも

歌番組を見たりして

たいして歌うまくないねとか

顔がいいからだろとか

言ってるうちに夜も更けて

おだやかな眠りに落ちている


もしもあなたと出逢わなかったら

そんなぬくもりもあったろう

けれどわたしはそんな暮らしに

微塵も焦がれたりしていない

肌刺す風にさらされていても

あなたといる方がいい


シャッターの閉まった商店街を抜け

わたしたちは真冬の海へ出る

潮の香りと 波と 半月と 

どこかからこだまする鐘の音

祈るようにつなぎあう

かじかんだ手と手


ことしあなたと出逢ったことを

わたしは悔んでなどいない

幸せや ぬくもりや 契りといった

あやふやなものより

わたしがつよく愛するのは

いまたしかに感じられる

たよりなきこの手だ


このままふたり

夜が明けるのを待とう

約束も 未来も 道しるべも

何ひとつ持ち合わせはないけれど

やがて海の彼方が示してくれる

凍えて暮らす者たちにも

手つかずの明日は昇るはずだと