蛙の歌 カウンター席の隣であなたは ギムレットの残りを飲み干すと 手首の時計をちらとのぞく それをお決まりの合図として ぼくらは黙って席を立った 店を出て階段をあがると 地上では激しい雨 傘を持たぬふたりは ひさしの下で立ちすくむ 海の浅瀬ほども波をはね上げ トラックが国道を去ってゆく ずぶ濡れになる覚悟ならば 駅まで走ってゆけるけれど ぼくらは雨を言い訳にして 終電の時刻が過ぎるのを待つ 確信犯を共謀しながら 過失のように装って 泳ぎつかれた蛙たちが 息つぎのために顔を出したら その口に豪雨が降りそそぐ たとえばそんなとき 蛙たちなら どんな声で歌うんだろな 最終列車に乗ったなら あなたは人の女へ帰る それを知っていてぼくらは いつまでもずるく佇んでいる 輪唱の歌い出しを どちらが担うかも決められずに