蚊帳



線香花火が終わると

おれたちは浴衣の帯をゆるめ

縁側に膝を並べた

まつわりつく残暑と

火薬の残り香をはらうように

うちわで煽ぎあって


盆の上には

半月状の西瓜と食卓塩

風鈴の音を聴きながら

ひと思いにかぶりつくと

真っ赤な汁が滴り落ちて

浴衣の裾でうす桃ににじむ


おんなが舌に乗せて見せた

半月の種を

おれは唇でつまみあげ

口の中で転がした

庭の草陰で待てないマツムシが

ぴぴるりりと鳴く


やがておれたちは

縁側の雨戸を開け放したまま

蚊帳に入って明かりを消した

浴衣ごと引きよせた腰は

たよりないほど細く

黒髪からは鳳仙花の薫り


許されぬことと知っていた

ただ血を吸い合う巷から逃れて

安らげる場所が欲しかった

乱れた衿元からのぞく

白くきゃしゃな鎖骨を

網に漉された月光が照らした


果てた格好のまま眠っていた

不吉な夢で目が覚めた

おんなは寝汗をかいたまま

まだ深い息をしている

蚊帳の外では容赦なく

正しい朝が明けかけている