絹目の虹



古いアルバムをめくっていたら

空の写真が一葉でてきた

台紙からはがして手にとって見ると

うっすらと虹が写っていて

ふいに少年の頃の記憶がよみがえる


雨上がりの空に虹を見つけて

ぼくは慌てて父のカメラを借りたのだった

たしか出たてのオートフォーカスで

ピントが自動で合うのに驚きつつも

フィルムを無駄にせぬよう

慎重にファインダーをのぞきこみ

緊張しながらシャッターを切った


うまく撮れたか知りたくてぼくは

早く残りのフィルムを使うよう父を急かした

近所の写真屋さんに現像をたのみに行くと

光沢か絹目かをたずねられ

指紋のつきにくい絹目を選んだ


仕上がり日に店内へ駆け込むと

その場ですぐに写真を見た

うまく撮れたとは言い難いけれど

そこにはたしかに虹が写っていて

ぼくは興奮しながらネガを指さし

焼き増しをおねがいした

好きだった少女にあげるために


少女にそれを渡せたのかどうか

そこのところはよく覚えていない

だいいちぼくは思いも告げられず

彼女に指紋ひとつ残せはしなかった


手もとの写真をもういちど見る

絹目の虹は 初恋の記憶に似て

鮮やかに輝いてはいないものの

しっとりとやわらかく 

あの日の空にかかっている