百舌鳥 先週から降りつづいている雨が 夜を隅々まで濡らす まばらな街路樹をたずさえた坂道は その背中に雨水をすべらせながら まっすぐ駅へとつづいている ぼくらは坂をくだりきり 交差点の手前で立ち止まる 舗装したてのアスファルトから 滲みだしている油の虹が 信号灯の赤に塗りつぶされる 右にいるぼくは左手で傘をさし 左にいるあなたは右手で傘をさし ぼくらは小賢しく雨を利用して 手を繋げぬ言い訳にする 排水溝に落ち葉が折り重なり 流れるべきものを留めている ふと一羽の百舌鳥が飛んできて ふたりの足元にとまる どこから迷い込んできたのか 深紅に染まった羽衣を震わせ くちばしを固く閉ざして やがて信号が変わると 水浸しの町は青へと反転し それを合図に人々は歩きはじめる ぼくらは一歩もふみ出せずに ただその場に立ちすくむ 信号が明滅しはじめる ぼくはあなたの二の腕を引き寄せ こちらの傘に招き入れる ひとつ屋根の下でふたり またたいて今にも消えそうな 青い鳥を見るために