胸に咲く星
 


おそれるでない

おまえには

冬の夜空を焦がすシリウスのような

まばゆい理想があったのではなかったか

ひるんではならない

わけもなく頭をかすめる杞憂に

根拠なく胸をよぎる悲観に


幼き日々を思い出すがよい

雨の予報になど目もくれず

焚き火に薪をくべていた頃を

いま おまえに必要なのは

その打算なき愚かさと

明日にも訪れるかもしれぬ死の自覚と

ほんのひとさじの勇気


わすれるでない

わたしには

夏の夜空にまたたくベガのような

ゆるぎなき夢があったのではなかったか

なびいてはならない

惰眠へとみちびく春の誘惑に

枯渇さえ美化する秋の浪漫に


我々は生まれながら

胸に燃ゆる星を飼っていて

薪をくべるのをやめた順から

火傷することのない

正しそうな大人になってゆく


はじらわないで

あなたの胸に咲く星が

理想や夢といった

眩しすぎるものであったとしても

情熱や愛といった

照れくさいものであったとしても


きれいごとだと嘲笑う者があるなら

わたしは問いたい

それではなぜ 我々は

ひとの心は どうして

きれいなことを思いつくように

できているのですか