新世界プリン



元日の朝

胸やけにさいなまれながら新聞を開くと

イラク西部で23人が死亡した

連続自爆テロについて

アルカイダ系武装組織が犯行声明を出した

という記事が載っていた


その日の午後

お年賀の昆布と差し入れのプリンを提げて

親戚一家が挨拶に来た


音信不通だった恩師から届いた年賀状に

返事を書かなければと

パソコンに向かっていたわたしの膝に

三つになったばかりの甥っ子がよじ登ってきて

「デンシャ デンシャ」と騒ぎだす


一旦はがきソフトを閉じて

You Tubeで「電車」を検索すると

どこのだれがアップしたかしれない

鉄道模型の動画がヒットし

プラスチックのレールの上を

模型の汽車が走り出す


黙って見入っていた甥っ子は

やがて汽車が脱線し

がしゃんと横倒れになったところで

わぁ! と叫んで興奮する


隣のリビングから

「ほら おせちよ おぞうによ」と

大人たちが呼びかけても

彼は見向きもせず

膝の上から降りようともしない


酒盛りが始まったリビングの

つけっぱなしのTVには

お笑い番組の合間に挟み込まれたニュースで

核廃絶を唱える大統領の顔が

アップで映し出されている


「モット モット」と騒ぐので

関連動画のところをクリック

今度はレールの左右から走ってきた

特急同士が正面衝突

甥っ子はますます面白がり

手をたたいて喜んでいる


一時間ほどそうしているうち

「ほら プリンよ!」と声がかかると

ふいに甥っ子は膝からおりて

円卓を囲う大人たちのもとへ駈けてゆき

さっきまでの熱はどこへやら

ちゃっかりスプーンを手にしている


わたしは再びはがきソフトを開き

新しい住所を入力をする

かつて満洲へ赴いたことのある

懐かしい恩師から久々に届いた

年賀状を片手に


先生 

我々が新世界に向けて

用意すべきプリンは何ですか

あいつが膝に残していった

このあたたかさのための