対岸のひと



最終列車に乗って

夜の河をわたる

橋を蹴りおくる車輪のきしみが

みぞおち辺りに響いてくる


河をわたりきる頃には

あなたは遠いひととなる

白桃のような残り香が

鎖骨にこびりついている


車内にいる人々はみな

だれかと繋がりあえると信じて

液晶の画面を見つめている

窓から外を見おろすと

紺青の流れに一艘

揺れる月の小舟


河を隔てて わたしたちは

またしばらく別々の

時を紡いでゆかねばならない

米や領収証やアイロンにまつわる

あたりまえの日々を


列車は河をわたり終え

あなたは対岸のひととなる

命がふたつあればいい

闇を掻き分け 列車は走る