焚火 夜の浜辺でこうしてだれかと 焚火をするのが夢だった 水平線の向こうに レモン色の月が昇って 寄せる波の音は静かで ロマンチックだね 夢に見たそのだれかが あなたでよかったな 学生の頃住んでいたから 湘南のことは詳しくて ここが穴場だと知っていた 秋の夜にはだれも来ないし 防波堤の陰になって 134号からも見えない場所 火は思っていたよりも 勢いを増して キャンプファイアーみたいだね ギターを持ってくれば ふたりで歌でも うたえたのにね あなたのほそい肩を そっと抱き寄せる だいじょうぶだよ これでもう震えなくてすむ ほら　焔に手をかざして いっしょにあたたまろう 会うたびに増えつづける あなたの肌に刻まれるアザを 見過ごすことはできなかった のろわれた暮らしにいる あなたを救い出すには こうするしかなかったんだ 空になった灯油のポリタンクが 沖からの風で転がってゆく 炭になる黒い火種から 煤けた硫黄の匂いがする 燃えかすは暁にでも 砂に埋めてしまえばいいさ 闇に映える焔はきれいだね なんだかロマンチックだね 夜の浜辺でこうしてあなたと 焚火をするのが夢だった