たとえそれが正義じゃなくても



子どものころ見たヒーローものでは

悪者が弱き者を痛めつけているとき

なぜ分かるのか どうして知るのか

満を持して グッドタイミングで

正義の味方が参上した


ヒーローがすぐさま悪者と戦い出すと

ぼくは子どもごころにも 

その間ほったらかされている傷ついた者が

気になってしかたなく

戦闘シーンに集中できなかった


ヒーローが先に被害者に声をかけ

まずは傷の様子を聞き安全を確保する

そのパターンもあったが

次の瞬間ヒーローは悪者を倒すため

やはり戦いにゆくのであった


その間も傷を負った者のことが気にかかり

必殺技などは上の空だった

きっとぼくはヒーローに向いてないのだ

男失格なのだ それが悔しくて

ひとり唇を噛んでいた


大人になって

それに近い現実が起こったとき

ぼくは仕事の最中で事件のことを知らず

すぐに参上することなどできなかった

たいせつな人は既に傷ついていた


ぼくは己の非力を呪いながら

傷ついた人の話を聞きつづけた

癒えるまで片時も離れないと誓った

あなたのそばにいる だから

悪を倒しにはいかないと


やはりぼくは子どものころ見たような

ヒーローにはなれなかった

流れ出る血を抑えることに必死で

殺意すら抱くほど憎い

クズどもを世にのさばらせたまま


それでも今 あなたを置いて

恨みや懲悪や復讐の名のもとに

ここを離れることなどできない

戦いに出ている間 あなたを

ひとりぼっちにすることなど


あなたが涙をこぼすとき

すぐに拭えるところにいたい

怒りに固めた拳をほどいて

そっとあなたを撫でていたい

たとえそれが正義じゃなくても


ごめんね たいせつな人

ぼくは勇ましく悪を倒しにゆくような

正義の味方にはなれないよ

でもね 誓う ぼくはずっと

あなたの味方だ