天体観測



吸いかけの煙草を挟んだ指で

照準を合わせながら

彼は望遠鏡をのぞいている

シュミットカセグレン式だからどうのと

彼女には分からぬ蘊蓄を並べて


彼女は相槌を打ちながら

接眼レンズをのぞく彼を見る

えりあしの寝ぐせのあとが

幼い頃から相変わらず

雑に跳ねかえっていて可笑しい


オレがどうして星を好きか

おまえ 知ってる? と彼が聞く

きれいだから? と彼女は聞き返す

違うよ  

届かないからさ


ふん と彼女はつまらない

いつでも手が届く小石のように

ずっとそばにいたというのに

男という生き物はいつだって

遠い星ばかり見ている


嗚呼 彼が焦がれるほど遥かで

またたいていられたら

そんな空想を彼女はかき消す

やっぱり いや

離れてしまうなんて


彼女はかたくなに

彼だけに照準を合わせてきた

目の前にいるのに

まるでレンズ越しの届かぬ星に

手をのばすように


それでも彼女は信じてみる

わたしだってただの石じゃなく

運命の地に流れ落ち

それでも尚 燃えくすぶる

隕石かもしれない と


あきらめるなんてできない

広い宇宙の中できっと

わたしだけだもの

この人の寝ぐせを跳ねぐあいを

観測しつづけているのは