竹林



少女は鍵を開けて

玄関に少年を招き入れた

お母さんは?

靴を脱ぎながら少年が尋ねると

少女は首を横にふった


家の中はひんやりとしていて

生活の音や匂いがなかった

板張りの廊下を進み

二階へと続く階段をのぼると

正面が少女の部屋だった


ふたりは体育座りで向き合った

晩ご飯どうしてるの?

少年が尋ねると

少女はランドセルから

カロリーメイトの箱を出した


ウチニハネ

母親ガイナイノ

父親ガ

フタリ イルダケ

ゴメン トイレ


少女が部屋を出ていくと

少年は手持ちぶさたに窓を開けた

夕暮れの風が吹き込み

窓の外には青々とした

竹林が茂っていた


しばらくして戻ってきた少女は

ネエ 夢ッテアル? と尋ねた

うん 大工さん きみは? 

長い沈黙のあと少女は言った

アタシハネ ダレカノ


ふいに消防車のサイレンが

遠くから聞こえてきて

窓の外に目をやると

竹林の奥から煙があがり

笹の焦げる匂いがした


火事カナ?

心配いらないよ

守ッテクレル?

だいじょうぶさ


少女は肩をふるわせて

兎のように怯えていた

少年は少女の手をとって

立ちあがった

家を出よう!


焔は赤々と燃えさかり

めりめりと竹の折れる音がした

少年は手を引き寄せた

少女の指先から仄かに

火薬の匂いがした