ともしび



黒い煙をたちのぼらせて

くすぶっていたわたしに

あなたはそっと息を吹き込んだ


灰色のくらしにまみれて

燃えかすのようだったわたしに

あなたはふたたび火をともした


わたしはかすかに燃えつづけた

せめてものお返しに

ふるえるその身をなぐさめる

暖になれないものかと


紙細工のようなあなたの心に

触れることは憚られたが

かたわらであたためうる

ささやかな光でありたいと


それは愚かな火であった

かつてそんなやり方で

たいせつなものを守れたやつなど

いはしなかったのに


人はだれも口づけを捧げ

しかと抱きよせ

高らかに愛を宣言し

指輪や役所の紙で

契りを交わし

子どもをもうけ

たしかなしあわせを

築きあげているというのに


わたしは愚かな火であった

凍りつくあなたの心を

これ以上いたまぬようにと

溶かすことばかり願っていた


やがて容赦なく雨は降りそそぎ

わたしはまもなく消し炭になるだろう

そんなことも気づけずにいるほど

わたしは愚かな火であった

あなたを失うくらいなら

世界を焼き払っておくべきだった


ねえ 雨が消してしまう前に

この残り火を見て

これはあなたがくれた

ともしびなんだよ

こんなわたしでも

ほんのひととき

世界が明るく見えたんだ