屋台にて



接待忘年会の帰り道

つりがね星を見上げていたら

なんだかやけに虚しくなって

屋台の灯りに誘われた


ひとり飲みなおそうかと

暖簾をくぐって長椅子に座り

熱燗と大根を注文した

ふと隣の席を見ると

ちくわぶをほおばるキツネがいた


キツネはできあがっているようで

巻き舌でくだを巻いていた

「いやさ なにがつらいってね

たいてい悪役でしょうよ わしらは」

話しかけられてるのかひとり言なのか

よく分からなかった


「ずる賢いイメージだからってさぁ

いじわるな役回りばかりでよぉ・・・」

キツネはコンニャクをつるんと口にして

芋焼酎で流し込んだ

七輪で煮込まれている鍋が

ぐつぐつと鳴っている


かつおぶしと昆布の出汁がきいた

ほくほくの大根は美味だった

キツネは焼酎のおかわりと

がんもとつみれを追加した

ラジオからは因幡晃の

『わかって下さい』が流れている


卵もきんちゃくも絶品だった

手酌でお猪口についでいると

キツネはぽつりとこぼした

「つり上がった目がいけないのかなぁ・・・」

話しかけようかと思ったが

詫びる言葉が浮かばなかった


人に親しみがあるからこそ

むかし話に多く出てくるのだし

『手袋を買いに』や『ごんぎつね』といった

優しい例もたくさんあることを

どう伝えたらいいか迷っていると


ふいに屋台の店主が振り向き

キツネの肩に手を乗せて言った

「わかるよ」

店主の顔をのぞきこむと

丸々と太ったタヌキだった


ふたりは意気投合したあげく

不当にいたずら者扱いされてることや

肉を使われてるわけでもないのに

うどんや蕎麦に命名されてることへの

愚痴をこぼしあった

七輪の火が勢いを増した


化かされているとは思えない

いや 思いたくない

酔ってはいるが これは現実だ

だいいち幻のおでんなら

こんなに美味いはずはない