Ｙ氏の絶対嘘感 あなたが上手に嘘をついても Y氏はすぐに見抜いてしまう どれほど巧妙に仕組まれた罠も Y氏を欺くことはできない 動揺を感じとっているわけでも 癖を見抜いているわけでもないという 話に嘘が混じるとY氏には そこだけ紫に見えるらしい 「絶対音感」があるようにおそらく 「絶対嘘感」のようなものもあり Y氏にはその能力が備わっている 要らぬスペックだと氏は嘆く これまで愛した誰ひとりとして 嘘をつかなかった者はなく そのたび氏の愛は冷めていった 気づかぬ振りにも疲れてしまって 紫に見えるのは　青ざめた心と 真っ赤な嘘が溶け合うからか キスをすれば尚分かりよいという 二枚舌が絡んでくるので そんな力を授かったがゆえ 次第にだれも寄りつかなくなった 嘘も方便とする人々からは バケモノ扱いすらされて 町を追いやられたY氏はいま 離島に身を潜めているという もの言わぬクラゲたちと エヴァグリーンの海にかこまれて