ゆううつ
イヤホンで両耳をふさいで
マスクで鼻と口をふさいで
電車の窓から曇天を見ている
行きたい場所なんて何処にもない
生きたい理由もとくにはない
課せられた仕事をこなすため
レールにのって運ばれている
近くの景色はあっというまに
うしろにゆき過ぎて怖いから
なるべく遠くの空を見ている
知りたい世界なんて何処にもない
死にたい理由もとくにはない
いつかあなたと繋いだ手には
虚空を握りしめている
ふと鼓膜にウイングスの
「My Love」がそそがれる
やめてくれ
リンダは死んだじゃないか
イヤホンを耳から引きはがすと
単調なリズムをくりかえす
錆びた車輪の歌が聴こえる
おれは死刑宣告されたも同然の
独房へ向かうだけの囚人だ
揺れる護送車の窓から
にぶい空を見あげている
このゆううつな世界のどこかで
あなたが生きていることだけを
ゆいいつの望みとして
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