ザクロ



灯のない砂利道に自転車を停め

深夜の野原に腰をおろした

あなたは膝をかかえた格好で

黙ったまま唇を噛んでおり

隣でぼくは仰向けに寝ころび

その唇が動くのを待っている


急の電話で呼び出しておいて

あなたはひと言も喋らない

ぼくは闇と沈黙に耐えきれず

たどたどしい口笛を吹く

見えぬ草陰からきりぎりすが

しょっ ぎいぃ しょっ と返す


夜風がそっと雲の背を押して

十六夜の月を下界にさらす

ふと起きあがって横を見ると

月光に照らされたあなたの白い

膝や脛やくるぶしから

青あざの群れが浮かびあがる


思わず目をそらし 灌木を見上げると

熟れきったザクロがなっていた

割れた実からは肉がむき出し

そのあけすけな裂け目から

甘酸っぱい芳香とともに

深紅の汁がしたたり落ちる


雫が地面に触れるとそこから

ふいに焔が燃えひろがる

草々がぱちんぱちんと音を鳴らし

焦げた虫たちの匂いが鼻をつく

やがて其処此処から火柱があがり

下界も宇宙もくれないに染まる


ぼくらはただうずくまって

焼けただれてゆく世界を見ている

嗚呼 月よ 答えてくれ

いったいぼくらはここから始まる

この果てしない地獄と

どう渡りあってゆけばよいのだ